唇へのフィラーには、なぜ特有のリスクがあるのですか?
唇は顔の中でも特によく動き、血流が豊富な部位の一つです。話すとき、食べるとき、笑うときに絶えず動くため、フィラーが広がったり、かたまったり、位置がずれたりしやすい環境になることがあります。唇の中には、筋肉の層の周りを上唇と下唇の動脈が通っています。これらの血管の深さや走り方には個人差があります。
唇はフィラー施術が最も多く行われる部位の一つで、報告されている合併症のかなりの部分もこの部位に関するものです。文献の総説では、唇へのフィラーで最も多く報告されている問題はしこり(結節)であり、フィラーの移動、色の変化、口唇ヘルペスの再発も唇に関連する問題に含まれることが示されています。合併症が公表されない、あるいは報告されないこともあるため、実際の頻度は正確にはわかっていません。
施術の基本的な情報については「ヒアルロン酸フィラー:どんな治療か、どのように行うか、どんなリスクがあるか」を、フィラー全般の問題については「フィラーの合併症」をご覧ください。
唇へのフィラーの後、腫れはどこまで正常ですか?
唇はやわらかい組織と豊富な血管網のため、顔のほかの部位よりも腫れやすい部位です。最初の数日は、唇が予想よりずっとふっくらして見えたり、ときに少し左右差があったり、張って見えたりすることがあります。この腫れは多くの場合、最初の数日が最も目立ち、その後しだいに引いていきます。最終的な仕上がりを評価するには、通常数週間待つ必要があります。
注入した箇所の小さな内出血、触れたときの圧痛、最初の数時間の軽いしびれもよくみられます。これらの経過と軽くする方法については、「内出血と腫れ」をご覧ください。
一方、次のような場合は予想される腫れとは異なり、医師に相談する必要があります。日がたつにつれて強くなる腫れ、だんだん激しくなる痛み、唇の熱感、分泌物、発熱です。唇、舌、のどが数分のうちに急速に腫れてくる場合や、息苦しさがある場合は、アレルギーによる緊急事態の可能性があります。
唇にしこりや硬さができるのはなぜですか?
唇に触れるとわかる小さな硬さや、粒のようなふくらみは、フィラー後に最もよくみられる問題の一つです。原因はさまざまです。
- 製剤が一か所にたまること:通常は最初の数日から数週間で気づき、多くの場合痛みはありません。腫れが引くにつれて、一部は目立たなくなることがあります。
- 浅すぎる注入:唇の薄い粘膜のすぐ下に入った製剤は、触れるとわかるだけでなく、ときに細いふくらみや青みがかった影として見えることがあります。
- 遅れて起こる炎症反応:数週間後や数か月後に、ときに感染症、予防接種、歯科治療の後に現れる腫れ、赤み、圧痛です。
- 感染:痛み、赤み、熱感を伴い、だんだん大きくなる腫れで、ときに分泌物や発熱を伴います。
しこりの原因を見分けられるのは、診察する医師だけです。痛みがなく、時間とともに小さくなる硬さは、多くの場合様子をみることができます。大きくなる、痛みがある、赤い、または遅れて現れた腫れは評価を受けるべきです。医師から特に指示がない限り、しこりをマッサージしたり押しつぶしたりしないでください。
ふくらみすぎと左右差:なぜ唇が自然に見えないのですか?
唇が不釣り合いに大きく見える、前に突き出して見える、または上唇がめくれ上がりすぎて見える状態(俗にアヒル口と呼ばれるような見た目)は、多くの場合、1回の施術で大量の製剤を注入したことや、施術を重ねるうちに製剤がたまっていったことによるものです。以前のフィラーが完全に吸収されていないことに気づかずに新たな施術を受けることが、蓄積の一因になる人もいます。
軽い左右差は最初の数日の腫れによるもので、自然に整うことがあります。数週間たってもはっきりした左右差やふくらみすぎが残る場合は、医師が選択肢を一緒に検討します。ヒアルロン酸フィラーでは、余分な製剤の一部または全部をヒアルロニダーゼという酵素で溶かすことができます。
フィラーは唇の輪郭を越えて広がりますか?
はい。まれなことではありません。フィラーが唇の赤い部分(赤唇)の境界を越えて、上唇の皮膚、つまり鼻の下の部分へ広がることがあります。この場合、唇の上に、特に笑ったときに目立つ軽いふくらみや帯のような盛り上がりがみられます。英語の文献では、この見た目を、フィラーによる口ひげという意味の言葉で呼んでいます。フィラーが口の内側や口角へ移動することも報告されています。
移動の原因は完全にはわかっていませんが、製剤の量が多いこと、浅い注入、短い間隔での繰り返しの施術、唇が絶えず動くことが関わる要因と考えられています。移動は、ときに数か月から数年たってから気づかれます。ヒアルロン酸フィラーでは、医師が移動した製剤をヒアルロニダーゼで溶かすことをすすめる場合があります。溶かした後に再びフィラーを考える場合、そのタイミングは医師が判断します。
唇の施術後、最初の数日に目立つ腫れが出るのは、多くの場合想定される経過です。しかし、唇やその周りが白っぽくなる、紫がかった網目模様が出る、痛みがだんだん強くなるといった変化に気づいたら、待たずに施術した医師に連絡してください。
Dr. Hamza GemiciDoktorclub メディカルディレクター · 美容医療に携わる医師
唇へのフィラーは口唇ヘルペスのきっかけになりますか?
口唇ヘルペスは、皮膚や神経の細胞の中で眠っているウイルスが再び活動することで起こります。唇やその周りへの注射は、以前に口唇ヘルペスにかかったことがある人で、このウイルスが再び活動するきっかけになることがあります。症状は通常、施術後の数日のうちに、唇のピリピリ感やヒリヒリ感として始まり、その後、中に液体がたまった小さな水ぶくれとして現れます。
口唇ヘルペスの既往がある場合は、施術の前に必ず伝えてください。頻繁に口唇ヘルペスが出る人には、医師が施術前に予防のための治療を検討することがあります。唇に口唇ヘルペスが出ている間は、通常、施術は延期されます。施術後に口唇ヘルペスが出たと思ったら医師を受診してください。自己判断で処方薬を使ったり、水ぶくれをつぶしたりしないでください。口唇ヘルペスと感染の見分け方や治療については、「美容医療の施術後の感染症」をご覧ください。
唇の水ぶくれやかさぶたが、いつも口唇ヘルペスとは限りません。血管閉塞が進んだ数時間後にも、小さな水ぶくれや色が濃くなる変化がみられることがあります。水ぶくれとともに、皮膚が白くなる、紫がかった色、激しい痛みがある場合は、すぐに医師に連絡してください。
唇の動脈が詰まるとどうなりますか?どんなときが緊急ですか?
フィラーが唇の動脈の中に入ったり、血管を外側から圧迫したりすることは、まれですが重大な合併症です。詰まった血管が血液を送っている唇の組織に十分な血液が届かなくなり、すぐに処置を行わないと、唇やその周りの皮膚に組織の損傷や傷跡が残ることがあります。唇への施術で視力を失った例はきわめてまれにしか報告されていません。唇に特有の主なリスクは、組織への血液の供給が損なわれることです。
症状は多くの場合、施術中または施術直後に始まりますが、ときに数時間後に気づくこともあります。局所麻酔薬がしばらく痛みを隠すことがあるため、最初の数時間は鏡で唇の色を確認することが大切です。詳しい情報と、ステップごとにすべきことについては、「フィラー後、どんなときが緊急事態?血管閉塞とその他の警告サイン」をお読みください。
すぐに施術した医師に連絡してください(連絡がつかない場合は最寄りの救急外来へ)
- 唇や上唇の皮膚が白くなる、または著しく青白くなる
- 唇、唇の周り、または小鼻のほうへ網目状に広がる、紫がかった、または青みがかった色
- 突然の、強い、またはだんだん強くなる痛み(予想される圧痛とは明らかに違うもの)
- 唇の一部が周囲と比べて冷たい
- その後の数時間で色が濃くなる、小さな水ぶくれができる、またはかさぶたになる
待たずに112(トルコの救急番号。日本では119)に電話するか、最寄りの救急外来に行ってください
- かすみ目、視力の喪失、物が二重に見える、または目の激しい痛み
- 話しにくさ、顔のゆがみ、腕や脚の力が入らない
- 息苦しさ、飲み込みにくさ。唇、舌、のどが急速に腫れてくる
唇へのフィラーでアレルギーは起こりますか?
フィラー製剤や、それに含まれる局所麻酔薬に対する重いアレルギー反応はまれです。軽い赤みやかゆみが出ることはあります。一方、唇、舌、顔が数分のうちに急速に腫れてくる、息苦しさ、全身に広がるじんましん、気が遠くなる感じは緊急事態です。アレルギーによる早い段階の腫れを、施術による通常の腫れと見分けることは必ずしも簡単ではありません。急速に強くなる腫れでは待たないでください。詳しくは「美容医療におけるアレルギー反応」をご覧ください。
正常か、医師に相談すべきか、緊急か?
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正常と考えられるもの(様子をみる)
リストの症状には、どれもチェックが入っていません。記事では、次のものが想定される所見とされています:
- 最初の数日は目立ち、その後引いていく腫れ
- 注入した箇所の、境界がはっきりしていて時間とともに薄くなる内出血
- 腫れが引くにつれて小さくなる硬さ
- 最初の数日の軽い左右差
- 軽いピリピリ感やしびれ(最初の数時間)
症状が強くなったり、新しいことが起きたりした場合は、医師に相談してください。
| 正常と考えられるもの(様子をみる) | 医師に相談する | 緊急 |
|---|---|---|
| 最初の数日は目立ち、その後引いていく腫れ | 日がたつにつれて強くなる腫れ、熱感、分泌物 | 唇、舌、のどが急速に腫れる、息苦しさ:112 |
| 注入した箇所の、境界がはっきりしていて時間とともに薄くなる内出血 | 何週間も続く青みがかった影やふくらみ | 皮膚が白くなる、または網目状に広がる紫がかった色:すぐに医師または救急外来 |
| 腫れが引くにつれて小さくなる硬さ | 大きくなる、痛みがある、または遅れて現れたしこり | 突然の、激しい、だんだん強くなる痛み:すぐに医師または救急外来 |
| 最初の数日の軽い左右差 | 数週間後も続く左右差、唇の輪郭の上のふくらみ | 見え方や話し方の異常、力が入らない:112 |
| 軽いピリピリ感やしびれ(最初の数時間) | ピリピリ感に続いて、中に液体がたまった水ぶくれができる(口唇ヘルペスの疑い) | 水ぶくれとともに、皮膚が白くなる、色が濃くなる、激しい痛み:すぐに医師へ |
治療の選択肢は何ですか?医師は何をしてくれますか?
治療は、問題の種類、製剤がヒアルロン酸かどうか、症状がいつ始まったかによって決まります。医師はまず診察を行い、どの製剤をいつ注入したかを尋ねます。そのうえで、次のうちの一つまたはいくつかをすすめることがあります。
- 様子をみる:早い時期の腫れ、小さな凹凸、軽い左右差の多くは自然に改善します。
- フィラーの溶解:ヒアルロン酸フィラーで、しこり、ふくらみすぎ、唇の輪郭を越えた移動、または血管閉塞がある場合、医師はヒアルロニダーゼという酵素を使うことがあります。この酵素はヒアルロン酸だけを溶かします。
- 薬による治療:感染、口唇ヘルペス、または炎症反応が考えられる場合に、医師が適切と判断する治療です。処方と経過観察が必要です。
- 処置:膿がたまっている場合(膿瘍)はそれを排出します。ヒアルロン酸ではないフィラーでは、ときに外科的な評価が必要になります。
- 紹介:必要に応じて、皮膚科、形成外科、耳鼻咽喉科など、関連する専門分野へ紹介されます。
ヒアルロニダーゼも医薬品の一つで、まれにアレルギーを起こすことがあります。ハチに刺されたときのアレルギーがある場合は伝えてください。溶かした後に一時的な腫れが出ることがあり、ときに複数回の注射が必要になります。体内で溶けない、または非常に長くとどまるフィラーによる唇の問題は、治療がより難しくなります。
自宅でできること、してはいけないこと
- 医師から受けたアフターケアの指示に従いましょう。最初の数日は唇を押さないようにしましょう。
- 最初の数時間は鏡で唇の色を確認し、変化があれば日付とともに写真で記録しましょう。
- 製剤の種類と施術日がわかるものを手元に置き、ほかの医師を受診する際に見せましょう。
- 少しでも迷ったら、施術した医師に電話しましょう。
次のことはしないでください。
- 医師から特に指示がない限り、しこりや腫れをマッサージしたり押しつぶしたりしないでください。
- 医師に相談せずに温めないでください。
- 口唇ヘルペスの水ぶくれをつぶさないでください。自己判断で抗菌薬、ステロイドを含むクリーム、そのほかの処方薬を使わないでください。
- インターネットでフィラーを溶かすとされる製品や、唇用のフィラーペンなどを購入して自分に使わないでください。
- 問題を直すために、別の場所で同じ部位に新たなフィラーを受けないでください。
唇へのフィラーの合併症はどうすれば防げますか?
リスクを減らすために、次のことを心がけましょう。
- 施術は、唇の解剖をよく知り、合併症への対応の経験がある医師に、許可を受けた医療機関で受けましょう。
- 注入する製剤がヒアルロン酸かどうかを確認し、製剤の情報を書面でもらいましょう。
- 施術を受ける場所に、ヒアルロニダーゼと救急対応の設備があるかを確認しましょう。
- 口唇ヘルペス、アレルギー、自己免疫疾患、使用している薬、以前に受けた唇へのフィラーについて伝えましょう。
- 1回の施術で多すぎる量を求めないようにしましょう。必要に応じて、段階的に注入することを相談しましょう。
- 以前のフィラーの効果がきちんと評価される前に、施術を重ねないようにしましょう。
- 唇やその周りに口唇ヘルペス、傷、感染がある場合は、施術の延期を相談しましょう。
- 出どころのわからない製品、針を使わない圧力式の器具による注入、医療機関以外での施術は避けましょう。
医師に聞きたい質問
- 注入する製剤はヒアルロン酸ですか?製剤の情報を書面でもらえますか?
- ここにはヒアルロニダーゼと救急対応の設備がありますか?
- 唇の腫れはどのくらい続く可能性がありますか?どんな場合にあなたに電話すべきですか?
- 口唇ヘルペスの既往があります。施術の前に何か対策が必要ですか?
- 以前に受けたフィラーがまだ唇に残っている可能性はありますか?それをどのように評価しますか?
- フィラーが唇の輪郭を越えて広がらないように、どんな点に注意していますか?
- 仕上がりがふくらみすぎた場合や、しこりができた場合、どんな対応ができますか?
- ハチに刺されたときのアレルギーがあります。ヒアルロニダーゼが必要になった場合、問題になりますか?
- 診療時間外に問題が起きた場合、どのように連絡できますか?
よくある質問
唇へのフィラーの後、腫れは何日くらい続きますか?
腫れは通常、最初の数日が最も目立ち、その後しだいに引いていきます。期間は人、製剤、注入した量によって異なります。最終的な仕上がりを評価するには、通常数週間待つ必要があります。日がたつにつれて強くなる腫れ、熱感、分泌物がある場合は医師を受診してください。
唇へのフィラーでできたしこりは治りますか?
最初の数日に触れるとわかる小さな硬さの一部は、腫れが引くにつれて目立たなくなることがあります。何週間たっても消えない、大きくなる、または痛みのあるしこりは評価を受けるべきです。ヒアルロン酸フィラーでは、必要に応じて医師がヒアルロニダーゼで製剤を溶かすことができます。自分でマッサージしないでください。
唇へのフィラーは鼻の下のほうへ広がりますか?
はい。フィラーが唇の輪郭を越えて上唇の皮膚に広がり、唇の上に軽いふくらみをつくることがあります。量が多いことや、短い間隔での繰り返しの施術はリスクを高める可能性があります。ヒアルロン酸フィラーでは、医師が移動した製剤を溶かすことをすすめる場合があります。
唇へのフィラーで口唇ヘルペスが出ますか?
以前に口唇ヘルペスにかかったことがある人では、唇の周りへの注射が再発のきっかけになることがあります。口唇ヘルペスの既往は施術の前に伝えてください。医師が予防のための治療を検討することがあります。施術後に口唇ヘルペスが出たら医師を受診し、水ぶくれはつぶさないでください。
唇へのフィラーの後、唇が白くなりました。どうすればよいですか?
唇が白くなる、網目状に広がる紫がかった色、激しい痛みは血管閉塞のサインである可能性があり、待ってはいけません。すぐに施術した医師に連絡してください。連絡がつかない場合は最寄りの救急外来に行き、フィラーを受けたことを伝えてください。見え方や話し方の異常がある場合は112に電話してください。
ふくらみすぎた唇のフィラーは溶かせますか?
ヒアルロン酸フィラーでは、医師がヒアルロニダーゼという酵素で余分な製剤の一部または全部を溶かすことができます。溶かした後に一時的な腫れが出ることがあり、ときに複数回の注射が必要になります。体内で溶けないフィラーは、この方法では溶かせません。
唇へのフィラーが数か月後に腫れることはありますか?
まれに、数週間後や数か月後に、唇に腫れ、赤み、しこりが現れることがあります。ときに感染症、予防接種、歯科治療の後に起こります。評価が必要です。発熱があり、赤みが急速に広がる場合は、ためらわずに医師を受診してください。
出典
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- Guideline for the Safe Use of Hyaluronidase in Aesthetic Medicine, Including Modified High-dose Protocol (Murray G, Convery C, Walker L, Davies E). J Clin Aesthet Dermatol 14(8):E69–E75 — Journal of Clinical and Aesthetic Dermatology, 2021
- Dermal Filler Do’s and Don’ts for Wrinkles, Lips and More — U.S. Food and Drug Administration (FDA), 2023
美容医療専門家委員会
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